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◆◆◆◆
それから柿崎は喜多見を観察した。
地味?
否。
着ているものは高価ではないがセンスはいい。
無口?
否。
話しかけられたらちゃんと真摯になって話す。
あの上級生たちに向けたような乱暴な言葉遣いは教室では出さない。
暗い?大人しい?
ーー未知数。
だって教室で彼に話しかける人がいない。
係の仕事もちゃんとこなし、ちゃんと授業について行こうとする気のある彼に、教師も生徒も文句はない。
話しかける話題がなく、彼に用事がないだけだ。
「ねえねえ、社会科見学のグループ決めた?」
クラスメイトの話題はもっぱらこれだった。
柿崎の小学校では、好きな見学先を自分で選ぶことができた。
乳製品工場、ごみ処理場、浄水センター、缶詰工場、絨毯繊維工場の5つだ。
「私は乳製品かなー、ヨーグルト貰えるらしいしぃ」
「そんなこと言ったら缶詰工場だって鮭缶もらえるってウワサだよ」
「じゃあ、俺、浄水場で綺麗な水もらってくるわ!」
「じゃあ俺、ゴミもらってくる!」
「アホか!」
柿崎はクラスの輪の中心で頬杖を突きながら、窓際でまだたらたらと前の授業の黒板を写してる喜多見を見つめた。
――俺が話しかけたらどうなる?
この俺が話しかけたら喜多見は、みんなはどういう反応をするのだろうか。
柿崎は席を立った。
取り囲むクラスメイト達をかき分け、窓際のその席に向かった。
「なあ、喜多見」
黒板への視線を遮られた喜多見は驚いたように柿崎を見上げた。
「社会科見学、どこに行くか決めた?」
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