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◆◆◆◆
それからしばらく経ったある日。
柿崎が朝登校すると、教室の中央に人だかりが出来ていた。
何事かと覗き込むと、男子生徒が鼻血を出して倒れていた。
「どうしたんだよ……」
立ち尽くす喜多見の肩を掴むと、彼は静かに振り返った。
「こいつが」
彼は倒れている男子生徒を指さして言った。
「先週、花瓶の水やり当番だったのに忘れたから、花が萎れたんだ」
「―――は?」
柿崎はロッカーの隅に置かれた花瓶を見つめた。
カキツバタ。
担任の女教師が母親が育てたのだと嬉しそうに持ってきた、紫色の可憐な花。
女子たちがうっとりと見つめ、花に興味のない男子も物珍しげに覗き込んだ。
生き物係なんていなかったから、交代で水をやろうということになったのに。
ーーいや。
いやいやいやいやいや!
花じゃん。
たかが、花じゃん。
殴るようなことか?
鼻血が出るまで?
倒れ込むまで?
先週まで彼を慕っていたみんなが、彼を怯えた眼で見つめていた。
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