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◇◇◇◇
それからも喜多見はことあるごとに同級生を殴った。
「こいつが登校班の1年を置いてくのを見たから」
「こいつが宿題のドリル、答え写してるのを見たから」
「こいつが学校にタマゴッピ持ってきてたから」
「こいつが女子のスカート捲ったから」
こいつが。
こいつがこいつがこいつがこいつが。
喜多見の言っていることはいつも正しかった。
入学して間もない1年生を置いてきてはいけない。
皆が一生懸命やっているドリルの答えを写してはいけない。
学校にオモチャやゲームを持ってきてはいけない。
ましてや、女子のスカートなんて捲ってはいけない。
それはそうだ。
誰に聞いたって10人が10人そうだと言う。
でも―――。
ーー殴るほどじゃねえだろ?
クラスメイト達は瞬く間に顔に絆創膏を増やしていった。
親に泣きついた生徒の話が瞬く間に保護者の間を伝わり、臨時保護者会が開かれた。
帰ってきた母は疲れたように肩を回しながら、ボソッと呟いた。
「喜多見君っていう子、親がいないんだって」
「え」
柿崎は驚いて振り返った。
「ーーだから何?」
真顔で言った柿崎を、母はなぜか驚いたような顔で振り返った。
だって俺は母さんがいなくたって、
親父がいなくたって、
今の俺だった自信があるけど?
クラスメイトを殴ったりしない。
上手に諭して、上手に操って、上手に笑わせる自分だったと思うけど?
柿崎はソファに蹲りため息をついた。
喜多見龍。
使える男だと思ったけど。
ーーあいつは、終わりだ。
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