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沢渡がよろけながら逃げていくと、喜多見は柿崎の正面に立った。
「…………」
「――――」
無言で向かい合う。
「ーー殴るのか?俺のことも」
柿崎はその色素の薄い目を眺めながら言った。
「いいよ。殴れよ。どうせあの馬鹿の言う通り、顔なんてなんの役にも立たねえ」
自嘲的に笑うと、喜多見がその顔に手を伸ばしてきた。
「――!!」
殴られる。
そう思い目を瞑り構えた頬に、喜多見の皮の厚い掌が触れた。
「―――?」
驚いて目を開けると、喜多見が柿崎のこめかみ辺りを撫でている。
「さっき、蹴り倒された時に切ったんだな。痛むか?」
「…………」
柿崎はポカンと口を開けた。
「見たところ、あまり深くもなさそうだけど」
「―――なんで……」
「?」
喜多見が細い目を見開く。
「なんで俺を慕う……?なんで、優しくなんかすんだよ」
だって俺は―――
こいつを都合よく利用した。
そして都合が悪くなって利用できないとわかるや否や即捨てた。
それなのに―――。
「柿崎は俺の……」
喜多見はこちらを見下ろして言った。
「ヒーローだからだ……」
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