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「…………」 ひっくり返った喜多見が、後頭部を抑えながら悶絶している。 転がった柿崎は枯葉を振り返った。 大丈夫だ。 こっちにやってこない。 「いったい何してんの……」 そこでやっと食堂から泉が駆け出してきた。 「こんの喜多見のアホ!……ふざけやがって!」 柿崎はいつまでも頭を押さえている喜多見の頭にもう一発パンチを咥えた。 「……っ!……っ!!」 喜多見の様子がおかしい。 マズい。打ち所が悪かったのだろうか。 柿崎が前に回り込むと、 「お前……何泣いてんだよ」 喜多見は頭を抑え込んだまま泣いていた。 「俺はな、喜多見―――」 柿崎は喜多見の肩を掴み上げた。 「お前に泣かれるような人間じゃねえんだよ…!」 なぜか自分の目からも涙が溢れてきた。 「さっきの会話聞いてただろ!俺と沢渡と中林の3人は、柊麗奈に最低のことをしたんだよ! 俺はお前が思うような男じゃ、ましてやヒーローなんかじゃねえんだよ! そんなのお前の正義感だったら許せねえだろうが!だから―――」 「俺にどっでば!!」 喜多見が涙と鼻水でグショグショに濡れた顔で言う。 「人を殺そうが、女を犯そうが、透は俺のヒーローだっ!」 「な……」 「何をしてもいい。誰を使ってもいい。生き残ってくれ、透!生き残ったら……」 喜多見は潤んだ瞳で柿崎を見つめた。 「生き残ったらそれが、正義だ…!!」 「…………」 柿崎は手を離すと、その場に膝をついて座り込んだ。 「―――お前、俺に惚れたわけ?」 項垂れたまま聞く。 「小学生んときから、ずっと惚れてる」 喜多見が両手で涙を拭う。 「……生憎、俺、ホモじゃねえんだけど」 柿崎が弱く笑うと、 「……そこは安心しろ。俺もだ」 喜多見も手を離してニカッと笑った。 出会って7年。 喜多見の笑顔を見たのは、それが初めてだった。
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