1

3/3
前へ
/245ページ
次へ
◇◇◇ 「はあーーっ!たくッ!!」 何十回と蹴り上げ満足したのか、それともただ単に疲れたのか、沢渡は倒れている泉の隣にしゃがみこんだ。 「ーー今頃あいつらヤリまくってんのかな。畜生」 沢渡が誰にともなく呟く。 「よくあんな殺人鬼相手に勃つよ。――なあ?」 泉は全身の痛みを堪え上体を起こしながら、沢渡を横目で睨んだ。 『さっきの会話聞いてただろ!』 昨日、柿崎が喜多見に叫んだ言葉を思い出す。 『俺と沢渡と中林の3人は、柊麗奈に最低のことをしたんだよ!』 詳しくは聞かなかったが、沢渡は、死んだ中林、自らの身体を売った柿崎と共に、柊麗奈に何かをした。 もしこの惨状が、彼女の復讐を含んでのことだったら。 次に狙われるのは―――。 「そうだ」 沢渡が顔を上げた。 「次、あいつに喰われるの、お前にしろよ」 彼は真顔でこちらを振り返った。 「いいじゃん。お前、白くて柔らかくて旨そうだし。髭も生えてないし、腕毛も脛毛も薄くて食べやすそうだしよ」 ザザッ。 トイレのタイルの上をスリッパが擦る音が響く。 沢渡が仰向けに肘をついた泉の身体を跨いでしゃがみこむ。 「な?そうしろよ。次喰われるのはお前。立候補しろ」 言いながら両襟を掴み上げられる。 泉は大きな目で沢渡を睨み上げた。 「――んだあ?その目は……!」 沢渡は泉とは対照的な小さな目を剥きながら言った。 「――俺が味見してやろうか?」 言った瞬間、彼は泉の首に噛みついた。 「!!……ああ……!!」 吸われる。 吸血する蛭みたいに、強く強く首筋を吸われた。 焼けるような、裂けるような、鋭い痛みが走る。 一回りも二回りも大きな沢渡の体は、突き放そうとしてもビクともしない。 「あ……は……あ゛!!」 まるで強靭な顎をもつオオスズメバチに噛まれたミツバチのように動きを封印されたまま、泉は喘いだ。 「……変な声出すなよ。誤解されんだろ」 口から少し血を滲ませた沢渡がやっと口を離し、ニヤリと笑った。 「もし朝食後に立候補しなかったら、許さないからな」 「…ぐッ!!」 髪の毛をむしり取るように掴み上げられる。 「そんときは俺が、お前を犯り殺してやる……!」 耳元で囁かれたはずの声がなぜか、 蹴られて痛む腹に響いた。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

421人が本棚に入れています
本棚に追加