2

4/6
前へ
/245ページ
次へ
「井戸に突き落とすなんて……僕が!?無理だよ!そんなの!」 思わず大きな声を出した泉の口を喜多見がやけに硬い手で塞ぐ。 「何もお前にやれって言ってねえだろ。話は最後まで聞けよ…!」 耳元でささやかれ、泉は視線を白石に戻した。 「手押しポンプに仕掛けをする。いくらハンドルを上下しても水が吸えないようにする。そこでおかしいと思った柊さんが、井戸に被せている木の蓋を開けた瞬間を狙う」 「お前はただ何も知らないような顔で柊と一緒に井戸を覗き込んでいればいんだよ。顔を突っ込んだその瞬間、俺があの女を井戸の中に蹴り落とす!」 喜多見が浴槽脇に麗奈がいる体で思い切り足をスイングした。 ――蹴り落す。彼女を井戸の中に……。 「あとは落ちたところで何か硬くて重いものを被せて、彼女がよじ登ってきても絶対に出られないようにする」 白石も井戸の底を睨むように浴槽を見下ろした。 「俺と喜多見でポンプに仕掛けをする。泉にはその間柊さんの注意を逸らしていてほしい。 「注意を逸らす?どうやって」 「柿崎に会いたいって言ってほしい」 「!」 泉は喜多見を横目で見た。 彼は真っ直ぐに泉を睨んでくる。 「彼女の部屋は井戸とは反対方向だ。彼女が君を部屋に連れて行き、柿崎に会わせてくれるのが一番。もし彼女がそれを拒んだとしても、ひと目彼を見せてほしいと食い下がってほしいんだ」 「僕が……?」 眉間に皺を寄せる泉を白石は充血した目で見上げた。 「君は何か、柊さんに気に入られているみたいだから」 「――――」 喜多見も泉を睨む。 「気に入られてなんかいないよ…!」  泉は焦って否定した。 「たぶん一番弱そうだから安心してるだけだって」 「……まあ、そうだろうけど」 白石は泉から視線を逸らすと、小さく息を吐いた。 浴室には外から入ってきた蝉の声が響いている。 ミーンミンミンミンミンミンミンミー 少し前まではうるさくて煩わしかった蝉の声が、今やとても遠くに懐かしく感じる。 「―――彼女を、閉じ込めたとして……」 泉は感傷に浸りそうになるのを堪えながら、口を開いた。 「あの枯葉の問題はどうするの?あそこを抜けられないんじゃ、柊さんの手から逃れたとしても結局噛み殺さ――」 「それについては」 白石が泉の言葉を遮った。 「秘策がある」 泉が彼を見上げると、白石はそこで初めてフッと笑った。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

421人が本棚に入れています
本棚に追加