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白石が取り出したのはレモンだった。 「………」 泉は黙って白石を見上げると、彼は口の端を引き上げて笑った。 「やっぱり……お前はわかってたんだな」 そう言うと白石は泉の腕を引き、脱衣所まで来ると、洗濯機脇の腰窓を開けた。 レモンを振り被って投げた。 宙を飛んでいったレモンが着地した瞬間、周りの葉が避けるようにレモンから離れ、丸型に芝生が露になった。 「レモンの成分や匂いには、虫よけの効果がある。レモンの匂いをぷんぷんさせていけばあの枯葉たちを抜けられる」 白石がその様子を見ながら言った。 「でもそれって大量のレモンが必要なんじゃ……」 泉は眉を下げた。 確かに初日の夜、一人冷蔵庫に寄ったときにレモンは見つけていた。 あれを使えば、と思わないこともなかった。 しかし1個しかないがために諦めていた。 身体中に塗りつけたとしても、その果汁の量と蒸発するスピードを考えると、1個のレモンにつき、塗れるのは多くても2人。 しかもそれが完全に“枯葉”から抜けられると言い切れない上に、麗奈に見つかってしまっては終わりだ。 そしてそのたった1個のレモンさえ、今、白石が放ってしまった。 「さて、ご注目」 白石は目を細めた。 その手には丸められてボール状になった雑巾が握られていた。 彼はそれを同様に窓の外に投げ捨てた。 「――――え!?」 泉は腰窓に手をついて身を乗り出した。 レモンを放ったときと同様、枯葉が避けている。 「―――何をしたんだ……!?」 泉が驚いて振り返ると、白石は鏡下の収納棚を開けた。 「――――」 そこには各種洗剤や救急箱に混じって、まだ封を開けていない10本を超えるトイレ用芳香スプレーが入っていた。
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