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「……………」 この水は、どこから来ているんだろう。 地下水を引いているのか。 それとも井戸に直接繋がっているのか。 「どうしたの?」 隣で皿を洗っている麗奈が振り返る。 「あ……いや。こっちの水道は大丈夫なんだな、と思って」 「そうね。ここは井戸から直接引いてるから」 麗奈は微笑んだ。 「長いホースとかあれば、ここからお風呂までそのまま流せるんだけど」 「そっか。遠いもんね」 泉は頷くと、さも今思い出したように言った。 「そういえば、昼食にも柿崎君来なかったけど」 何でもないように言う。 「もしかして、まだ寝てるの?」 「ああ……うん。食べたくなったら降りてきてって言ってるんだけど、あんまり食欲ないらしくて」 麗奈も何でもないように答えた。 「そっか」 ―――言え。 部屋に会いに行ってもいいかって、聞け。 自分に命令を下すが、なかなか唇が動かない。 それを言った瞬間、激昂した彼女が自分を殺したらどうする。 『――なんでそんなこと言うの?』 あの黒点のような瞳で自分を睨んだらどうする。 「ーー気になる?」 麗奈がこちらを見つめる。 「ーー柿崎君のこと」 今だ。 言え。 「ーーーーー」 どうしても声がでない。 勇気がでない。 だって自分はーーー 白石が指摘した通り、 沢渡が睨んだ通り、 おそらくは彼女に、のに。 「洗い物が済んだら」 硬直した自分の代わりに、麗奈が口を開いた。 「見に行ってみる?」 「――――」 泉は驚いて彼女を振り返った。 ―――これは、罠か……? 「う……うーん」 曖昧に頷くと、 「そんなに気になるなら。ね、そうしよ?」 彼女は少し首を傾げながら泉の脇を抜けて冷蔵庫を開けた。 「ーーあれ」 冷蔵庫を覗き込んだ彼女の声が曇る。 「レモン……1個あったと思ったんだけどなー。今日はチキンソテーなのに」 長い髪の毛を揺らしながら探している。 ―――まずい。 レモンはさっき白石が放ってしまった。 「――泉君」 麗奈が低い声を出す。 「知らない?」 こちらを振り返らないまま麗奈が低い声を出す。 「―――ごめん……。わかんない」 泉は蚊の鳴くような声で言った。 「――――」 麗奈は笑顔で振り返った。 「だよね!私の思い違いかな」 「―――は……はは」 気を抜くと座り込みそうになる足を、泉は必死で堪えた。
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