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◆◆◆◆ 昼食の後片付けが済むと、麗奈は「さてと…」と言いながら、掌の水滴を腰エプロンで拭いた。 それをシュルシュルと解くと、アイランドキッチン脇に合った低い三脚にそれを掛けた。 白い着物の胸元をさっと直している。  一瞬、振袖の中が見えた。 白く細い腕。 そこには不自然なところなどない。 「……じゃあ、部屋まで行ってみる?柿崎君、まだ寝てるかもしれないけど」 麗奈は長い髪を頭頂部近くで結わえてポニーテールにしながら、泉を振り返った。 「…………」 記憶の中の何かをくすぐりそうで泉は必死でそれを振り払いながら、うんと頷いた。 廊下に出ると、喜多見と白石が立っていた。 「―――あら」 麗奈が2人を見上げる。 白石は目を合わせようとせず、喜多見は麗奈にガンつけるように下から睨み上げた。 「冷蔵庫にサイダーあるわよ。もしよかったら飲んでね」 麗奈は2人ににこやかに言い、その間を通り抜けた。 「――ありがとう、柊さん」 白石が麗奈ではなく、その後ろを歩く泉を見下ろしながら無表情で言う。 「あとでいただくよ」 背筋を冷たいものが伝う。 泉を見つめる彼の2つの黒い目は、まるで深い穴のようだった。 初日の彼は、 自分を背負ってくれた白石は、 もうそこにはいなかった。 彼は、おかしくなってしまった。 同級生の死を間のあたりにして。 自分自身も死の恐怖に直面して。 泉は顔を背けながら、顔を寄せて覗き込むように睨んでくる白石の脇を抜けた。 しかし、恐怖のあまりに狂ってしまう彼が、 普通の神経と、普通の弱さを持つ彼が、 ーー少しだけ、羨ましかった。
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