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◇◇◇ 階段を上りながら麗奈は振り返った。 「そう言えば、さっき、大丈夫だった?」 「―――え?」 泉は数段上を行く麗奈を見上げながら言った。 「ご飯食べてるとき、なんか沢渡君が泉君のこと蹴ってるように見えたから」 「…………」 嘘だ。 彼女はこっちを見てはいなかった。 気配でわかるのか? それとも音? どちらにしろ、人間の感覚ではない。 やはり彼女は…… 「!!」 頬に触れる冷たい感覚に泉は足を止めた。 一秒前まで確かに数段上を歩いていたはずの彼女の顔が目の前にある。 手を泉の頬に沿え、白目をむきながらこちらを見下ろしている。 ―――なに?何を見ている? 首……? 頸動脈? なんで―――? もしかして、喰われ…… 「怪我してる」 麗奈は囁くように言った。 「どうしたの、これ」 麗奈が顔を寄せる。 クンクンと鼻を鳴らしながらその首元の匂いを嗅いでいる。 そうか。 今朝、沢渡に噛まれた傷か……! 泉は硬直しながら目を見開いた。 肉食の動物はその捕食対象の体液の匂いで興奮する。 彼女は人間を喰らう。つまりは人の血液の匂いで豹変し襲い掛かってくることもあり得る。 軽率だった。 迂闊だった。 もっと注意を払うべきだったのに……! 「ーーあとで」 麗奈は大きな目で泉を覗き込むと、ふっと笑った。   「井戸の水で洗ってから、手当てしましょ」 「―――あ、うん。ありがと」 泉がやっとのことで言うと、彼女は柔らかく微笑んでまた先導して歩き出した。 「……………」 泉は細く長く息を吐くと、その後ろ姿に続いて歩き出した。
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