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◆◆◆◆ 白石は井戸の奥にある物置の影から息を殺して泉を睨んでいた。 やる気があるんだかないんだか、泉は手動ポンプのハンドルを単調に上下させながら空を見上げている。 「…………」 井戸に一番近くで比較的大きなオリーブの木の脇に隠れている喜多見に視線を送る。 彼は小さく頷くと、同じく泉を睨んだ。 表情筋のスイッチを切った能面のような顔。 あの顔からじゃ、柿崎が無事だったか否かが読み取れない。 空を見上げるその表情は何を恐れているわけでも何を期待しているわけでもないように見える。 ーーずっと、あいつが苦手だった。 いつも沢渡達に弄られ、いや虐められ、それでも次の授業には何事もなかったかのようにしれっと出てくる泉が。 少しでも傷ついた顔をしたり、我慢せずに保健室で休んだりすれば、自分が先頭を切ってイジメなんて辞めさせてやるのに。 誰にも頼らない。誰にも頼らない。 ”気丈”とはまた違う。 強いて言うなら――― 。 彼は人間に興味がない。 ーーじゃあ何に興味があるんだろう。 白石は泉に興味を持った。
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