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「うぐッ!!」 木の蓋に押し付けられた泉は、苦しそうに喘いだ。 「ーーあたしよ?泉君!?」  甲高い声を出したのは――― 沢渡だった。   ーーあの馬鹿…! 白石は奥歯をギリギリと噛みしめた。 ここからが正念場なのに。 きっとチャンスは一度しかないのに。 よりにもよってこいつに邪魔されるなんて……! 人数は少ない方が麗奈に怪しまれずに済むかと思ったが裏目に出た。 こんなことなら元から作戦をこいつにも共有しておくんだった。 しかし、後悔したところでもう遅い。 いつ裏口から麗奈が出てくるかわからない。 ここで自分や喜多見が出ていってはおしまいだ。 仮に出ていって沢渡を止めたところに彼女が来たとして、初めから姿が見えている人間に注意を払うのと、いると思わなかった人間から攻撃を受けるのとでは雲泥の差がある。 不意打ちを狙うしかないんだ。 それなのに―――。 「なんだよ、お手伝いって!お前らママゴトでも始める気か?」 沢渡はグイグイと泉を蓋に押し付けながら自分もそこに片脚をついた。 「二人仲良く井戸に落ちてればいいんじゃないの?」 同感だ。 いっそのことそれでいい。 白石は小さく頷いた。 ーーしかしそうするためにはお前の存在が邪魔なんだよ……! 今すぐ飛び出していって沢渡を先に井戸の中に突き落としてやりたい。 しかしそうする時間すらない。 粗い木の蓋に押し付けられた泉の頬から血が滲む。 「お前のこと先に落としてやるよ!ああ!?井戸の底で柊が来るのを虫と一緒に待ってろよ!このネクラがあ!!」 沢渡が半円型になっている蓋の半分を外した。 ーーマズい。 本当に泉が落とされたら。 そしてその瞬間を麗奈が見たら。 彼女は怒りまくって沢渡を殺すだろう。 それだけならまだいい。 自分や喜多見にまで火の粉が飛んで来たら……。 ―――どうする。 選択肢は二つ。 このまま泉が落とされないことを祈りつつ傍観するか。 沢渡をとめた上で現れた麗奈の隙をつくか。 どちらの方が助かる可能性が高い? 他の奴らなんてどうでもいい。 俺が助かる可能性が高いのは――― 『何してるの』 そのとき低い声が響いた。 「ーーーー!」 振り返るとそこには、 救急箱を持った麗奈が立っていた。
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