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ドサッ。 「ひいっ!!」 自分の身体の横に倒れ込んだ沢渡から逃げるように泉は腰を引いた。 遺体の下唇は鬱血し、脳から切り離された舌がだらしなく左右にべろんべろんと動いた。 「……う……げええええ!!」 泉が草むらに手をついて、そのまま吐いた。 白石もつられて吐きそうになったがここで出て行ってはすべてが無駄になってしまう。 必死に両手で口を押え、麗奈を睨んだ。 「泉君」 麗奈の声はいつものそれに戻っていた。 「大丈夫?」 ――この期に及んで泉の心配かよ……。 白石は自分でも聞こえないほど小さな音で舌打ちをした。 麗奈が白く細い手を泉に翳す。 「立てる?」 泉は吐瀉物にまみれた唇をぐいと手の甲で拭きながら、おそるおそるもう一つの手を彼女に伸ばした。 ―――この二人の関係は何なんだ? 友情?同じクラスになったこともないのに? それとも同情?さっき麗奈はイジメがどうのって言ってたしな。 はたまた恋愛感情? ―――はは。まさか。 「…………」 白石は心の中で笑いながら、麗奈の顔を見つめた。 ―――あんな顔、見たことない……。 無論、振り乱した髪の毛のせいではない。 沢渡の返り血を浴びて赤く染まっているからでもない。 「よいしょっと。あ、頬っぺた擦りむいてるじゃないの」 そんな優しそうな顔……。 ―――俺に見せたことなんてなかったのに。 「!!!!」 そのとき、オリーブの木の影から飛び出した喜多見が、一歩踏み出した。 白石は素早く視線を走らせた。 先ほど沢渡が泉を突き落とそうとしたおかげで井戸の蓋は半分空いている。 そこに麗奈を蹴り落すことができれば……! ―――麗奈は……!? 彼女は手を伸ばした泉を嬉しそうに見下ろしている。 ―――まだ気づいていない! 白石は息を飲んだ。 ―――頼む。喜多見……!! 喜多見の右足が麗奈の腰に入る。 ―――これで、決めてくれ!!
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