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◇◇◇
「―――辻君……!?」
「しっ」
手が外されると同時に叫んだ泉に辻は人差し指を当てると、廊下の気配を窺うように耳を澄ませた。
そして何も聞こえないとわかると、いよいよ泉を見下ろした。
カタカタと弱い地震のような音が響く。
眉間に皺を寄せた辻と、下顎を震わせた泉が同時に足元を見下ろした。
「ーーーおい」
辻が呆れたように息をつく。、
泉の足が震え、湿気対策でクロークに敷き詰められたすのこがカタカタと鳴っているのだった。
「チッ」
小さく舌打ちをした辻は、長い髪を掻き上げながら泉を睨んだ。
「……無駄に怯えんなよ。俺は白石や喜多見みたいにお前を恨んでるわけじゃねえって」
「…………!」
「だから真剣に答えろ。今ここで」
目線を合わせるためだろうか。辻は少し屈んで泉を覗き込んだ。
「お前、どっちだ?」
「―――え?」
「柊麗奈につくのか。それとも白石と喜多見につくのか。どっちなんだ?」
「…………」
言い淀んだ泉に、辻が目を細める。
「客観的に見て、今は6対4くらいで柊についた方が、お前の生存率は上がるような気がしないでもない。
白石は何を考えてるかわからんが、喜多見はお前のことを殺す勢いで怒ってる。
お前、喜多見を襲おうとした柊を止めたそうだが、そんなことあいつにとってはどうでもいいんだ」
そこまで言ってから辻は小さく息を吐いた。
「あいつは、柿崎のことしか考えていない」
「…………」
泉は頷き目を瞑った。
なにも自分だって助けてあげた恩を感じてほしいなんて、そんな都合のいいことは思っていない。
ただ土砂災害の際、彼に助けられたのをどこかで返したいと思っていたのも事実。
借りは返した。
それだけでいい。
「泉。いいか。お前だけには伝えとく」
辻は顔を寄せた。
「柿崎はもうすでに殺されてる」
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