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「つまりはそもそも喜多見は煙草の匂いがするから襲われない。俺たち2人はスプレーをかけて逃げろ。そういうこと?」 白石が1ミリも表情を動かさないまま言う。 「まあ、そうだ」 「なら―――」 白石は視線を喜多見にずらした。 「喜多見。お前、一人で行ってきてよ」 「……はあ?」 喜多見が白石を睨む。 「だってレモンの香りっていうのもさ、なんか怪しいじゃん。レモン自体は嫌いでも、レモンのフレグランスは成分が違うかもしれない。 そもそもスプレー状の消臭剤が、肌や衣服にどこまで付着するか、いつまでもつかもわからないのにさあ、危ないじゃん。 その点お前はもうすでに安全が立証されてるんだからリスクもないだろ」 白石はここにきてやっと僅かに微笑んだ。 「それにさ。辻ができない場合もあるだろ?」 「―――」 辻が視線を送るが、白石は喜多見だけを見つめて続ける。 「柊が辻を予想より早く食ったら?3人が逃げてるのを知って、柊は焦ってここを逃げる前に柿崎を食べていくかもしれない」 「!!!」 喜多見の表情が変わった。 「だろ?それだったら餌の選択肢は1つでも多い方が柿崎が助かる可能性は上がるぞ?」 白石はケラケラと笑い出した。 「――――」 彼が自分が危険を犯したくないがために言っているのは、ここにいる全員が気づいていた。 しかし―――。 「一理ある」 辻も息をついた。 「俺ができるだけ柊を引き付ける。その隙に喜多見がここを抜け出す。 白石と泉の2人は屋敷に潜んで喜多見の帰りを待ち、喜多見が助けを連れてきた時点で逃げ出す。 それで行こう」 「でも……どうやって」 泉が心配そうにこちらを見上げる。 「どうやって麗奈ちゃんの時間稼ぎをするの?」 「―――」 辻はふっと鼻で笑った。 「お前、俺を誰だと思ってんの」 「―――?」 「白目剥くほど、抱き潰してやるって言ってんだよ」 口の端を上げて言った辻の言葉に、白石がまたケケケと笑った。
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