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◆◆◆◆ すうっと大きく息を吸った。 古い民宿の躯体の匂いが肺を満たしていく。 こんなところで死にたくはない。 死にたくはないが…… もし、死んだら――あいつは……。 「辻君……」 振り返ると泉がそこにいた。 「泉……。いや、利之」 辻はその華奢な肩に手を置いた。 「――約束、忘れるなよ」 「――――」 泉はコクンと大きく頷き、そしてズボンの上からそれに触るようにポケットを撫でた。 「じゃ、行ってくるから」 そう言ったところで部屋から白石と喜多見も出てきた。 ――妙なもんだ。 辻はその顔を交互に見てふっと笑った。 こんなことにでもならなければ、きっと一生ダチになるどころか、つるみもしなかっただろうし、下手したら話すらしなかったかもしれない。 そんな4人が今、生死の運命を共に握り合っている。 「――――」 喜多見を見つめる。 思えばあの麗奈も、一番挑戦的で一度は暴力をふるったこの男だけには手を出せなかった。 きっと大丈夫。 あの枯葉たちも手を出せない。 後はこの暗闇の中、林を駆け抜けて、 土砂が道を塞いで大変かもしれないけど、どうにかたどり着いてくれ……! 「――――」 白石を見つめる。 こいつがおかしくなったのはいつからだろう。 そうだ。 うどんの時からだ。 小麦粉アレルギーだと暴露して、麗奈にあからさまな殺意を向けられたから……? 本当に、それだけか? わからない奴だ。 まだ本性の胸の内に秘めているような……。 「…………」 泉を見下ろす。 『僕から見た辻君って、なんていうか……女に興味なさそうだから』 何が女に興味なさそうだよ。 それはお前だろうが。 いや、違うな。 お前は女じゃなくて、人間に興味がないんだ。 この虫オタクめ! 辻は心の中で毒づき笑うと、ぐっと長い前髪をかきあげてゴムで結んだ。 「あとは頼んだぜ……!」 辻は3人に向かって手を上げると、一気に階段を駆け上がった。
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