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「……その食べかけのもんと、これを何とかしろよ。話はそれからだ」
辻は麗奈が持っている腕と、変色した顔で枕に置かれた柿崎の頭を指さした。
「…………」
麗奈は口から腕を口に咥えたまま、柿崎の髪の毛をぐいと引っ張った。
腐敗の始まっている皮膚がズルッと頭蓋骨からずれる。
剥き出しになった彼の首の断面から、ウジ虫だかシデムシだかわからないものがボタボタと落ちる。
無造作に窓を開けると、麗奈はそれを庭に放った。
それを例の枯葉たちが美味しく食しているのを想像し、辻は身震いをした。
麗奈は窓を閉めると鍵も駆けずに、一旦腕から口を離すと、改めてバキバキという奇怪な音を立てて食べ始めた。
―――人間の顎の強さじゃねえだろ……!
辻は眉間に皺を寄せながら、白い着物を真っ赤に染めながら“食事”を続ける彼女を見下ろした。
食堂で吉永が殺された時は、あまりの早さにはっきり言って麗奈が殺したという実感が持てなかった。
山田も、柿崎も、沢渡も、殺されるところは見なかった。
だから心のどこかで、
これは全て何かの間違いで、
他の誰かがやったことで、
麗奈は――柊麗奈は、何も悪くないと、
まだ信じたい自分がいた。
しかし、目の前で人の腕にまるでフライドチキンを食べるように、躊躇なく歯を立て噛みちぎり咀嚼し、蟹を分解するように、骨を折り、砕き、口に入れていく麗奈を見ていると、そんな淡い期待も泡のごとく消えていく。
―――こいつは……もう……。
俺が知っている麗奈ではないんだ。
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