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彼女は、自分の母親も入院しているため、ちょくちょく病院に来ているのだと言った。 ひょんなところから瑠璃と話すようになり、瑠璃の体調のいい日はこうして談話ルームで風に当たったり、食堂でアイスを食べたりしているのだということも、その日初めて知った。 「お世話になっていたのにお礼も出来ず、すいません」 その時は、彼女の落ち着いた物腰と、大人っぽいワンピースから、とても高校生だとは思わなかった。 後に麗奈から聞いた話では、彼女も自分を同い年とは思わなかったらしいが――。 「お母さん、ご病気なんですか」 訊ねた辻に麗奈は、「うん、そうなの」 と悲しそうに微笑んだ。 「退院は?」 聞くと、 「まだ、かかるかな……」 そう言いながら空を見上げた。 ◇◇◇ 「辻君?辻君だよね?」 高校に上がり、彼女に廊下で呼び止められるまで、気づかなかった。 麗奈もびっくりしたようで、嬉しそうに、 「びっくりした―!同じ学校だったんだね!「」 と微笑んだ。 学校ではほとんど話さなかったが、病院ではしょっちゅう3人で話した。 瑠璃は彼女とおしゃべりするという楽しみができたからか、前よりも離床する時間が長くなり、食欲も出て、その分お通じも順調だった。 嬉しそうに報告する看護師に瑠璃は恥ずかしそうに怒り、辻は笑った。 自分も瑠璃を楽しませるためにあの手この手を尽くしてきたつもりではあったが、同性と友達というのはやはり何かが違うらしい。 日に日に明るく活発的になっていく妹を見て、辻は嬉しかった。 ある日、病室に行くと、日の差すベットで瑠璃は眠っていた。 手には借りたのであろう少女漫画が握られていて、その髪を麗奈が撫でていた。 辻に気づくと麗奈は大きな目をこちらに向けて、人差し指を唇に当てた。 その柔らかい笑顔をみて、 ーー好きだ。 そう思った。 辻は瑠璃を起こすまいと静かに彼女に寄った。 「――――」 その熱い視線を、勘のいい彼女が気づかないはずはなかった。 彼女も大きな潤んだ瞳で見つめ返してきた。 言葉のない辻の告白に、 彼女も言葉を発することなく頷いた。 2人は少しだけ視線を下げ、互いの唇を見つめた。 どちらからともなくキスをした。 触れるだけのキスを。 それが―――。 最初で最後の、キスだった。
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