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「食事は終わったかよ?」
辻は鼻で笑うと、腕を食べ終わり口の周りについている血を指でふき取っている麗奈を見下ろした。
「お口、拭いてやろうか?」
微塵も楽しくない冗談を吐くと、
「ーー優しいのね。さすがお兄ちゃん……」
麗奈は真っ赤な舌で唇を嘗め取りながら言った。
「瑠璃ちゃんは元気?」
「――――」
辻は麗奈を睨み落とした。
「ーーよくそんなことが言えるな」
「?」
「最後にあいつに会いもしないで、男と消えたくせに……!」
「――――」
睨む辻を麗奈は黙って見上げた。
「やっと1年ぶりに姿を現したと思えば。今度は男をいろんな意味で喰らう化け物になって帰ってきましたってか?笑えねえんだよ……!」
辻はドンと壁を殴った。
「―――山田とのセックスは気持ちよかったか?柿崎は上手だったか?もしかして、泉とももうヤッたのかよ?」
麗奈は答えないまま視線を畳に落としている。
「こんなビッチになるなら。1年前、病院だろうが病室だろうが、抱いてやればよかったな。ごめんな?あんときはまだ初心だったんだ」
辻は鼻で笑った。
「柄にもなく大事にしようって思っ―――」
そこで声が詰まった。
そうだ。
大事にしようと思った。
瑠璃との友情を大事にしてくれた彼女を。
瑠璃に笑顔をくれた彼女を。
俺も、大事にしようと思っていたのに……。
「……どうしちゃったんだよ」
辻は麗奈の目の前に膝から崩れ落ちた。
「あんときの優しいお前は……どこにいったんだよ」
「…………」
「何があったんだ……麗奈?」
時間稼ぎなんて、
喜多見なんて、
泉なんて、
白石なんて、
どうでもよかった。
ただ真実が知りたかった。
自分の愛した女性は、本当は何を考えていたのか。
あれからどんなことがあって、彼女は何になってしまったのか。
「――教えてくれ……」
辻は滲む涙のレンズの向こうに映った、歪んだ彼女を見つめた。
「お前は、誰なんだ?」
「――――――」
長い沈黙の痕、麗奈はゆっくりと口を開いた。
「私は、私よ」
「―――」
「私は初めから、私」
そういうと麗奈は驚くほど冷たい両手で辻の顔を包んだ。
「さあ、もういいかしら」
そう言いながら赤い舌で、下唇に残っていた血液を嘗め取った。
「そのつもりで来たんでしょう?」
辻は麗奈を見上げた。
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