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辻が階段を上っていってからきっかり30分待った。 自らに経験がないため、男女のセックスというものが、開始から何分で山場を迎えるのかはわからない。 しかし、経験未知数の白石と、おそらくたくさん経験があるのだろう喜多見が迷わずその時間を選んだということは、おそらくはそういうことなのだろう。 泉は前を歩く2人を交互に見つめた。 「正面入口より裏口から出て回った方がいいと思うんだ」 渡り廊下に差し掛かったところで白石が振り返った。 助かる兆しが少しでも見えたからだろうか。 彼は本来の冷静さを取り戻しているように見えた。 「正面は草木が多くて、その分あの“枯葉”も多い。裏口なら駐車場でアスファルトが敷かれている分、少なくてリスクが低いから。一旦裏口から塀の外にでてから、正面に回って、そこから一気に林の方へ走れ」 白石の後ろに続く喜多見が無言で頷く。 「本当かは怪しいけど沼の周りには熊とかでるって言ってたから気を付けて。大通りまで出たら、見えないところで夜を明かして、明るくなってから移動した方がいい」 白石は喜多見を振り返りながら裏口に一番近い窓を開けた。 「気をつけて」 「俺に何かあったらーー」 窓枠に足をかけながら喜多見が白石を振り返る。 「透を頼む」 「おっけー」 白石は頷いた。 「うどんのとき、助けてくれた恩は忘れない」 「………助けた?」 喜多見は記憶を遡るように天井を見上げた。 「ああ。あんなの。助けたうちに入んのか?」 そう言うと彼はふっと笑った。 「―――――」 泉は彼の顔を見つめた。 『泉!飛べ!!!!』 そうだ。 彼は、バスに取り残されそうだった自分のことも助けてくれた。 『すげえ。こんなんでカブトムシが採れんの……?』 2日目、傍から見たら不気味な行動をしている自分のことも、否定せずに仕掛けづくりを手伝ってくれた。 「…………」 泉は一歩前に出た。 「あの、喜多見君……」 そしてこちらを睨む喜多見に、ソレを渡した。 「これ。……お守り程度にしかならないと思うけど」 それは多機能型のナイフだった。 「…………」 喜多見はそれを無言で受け取ると、泉を睨み落とした。 「透に何かあったら。俺は、お前を許さない」 その言葉に鳥肌が立つ。 もうすでに殺されている。 そう教えたら、彼はどんな反応をするのだろうか。 泉はすうっと息を吸い込むと、全てを飲み込んで頷いた。
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