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◆◆◆◆
部屋に戻った泉と白石は、灯りを付けずで畳に座り込んだ。
「ーーーー」
屋敷の内と外の気配を窺う。
喜多見の悲鳴も、麗奈の喘ぎ声も聞こえない。
酷く――――静かだ。
「―――なあ」
緩く膝を抱えた白石が俯いたまま言った。
「柊麗奈って結局、どうしてあんな化け物になったんだと思う?」
「…………」
窓から入ってくる月明りはあまりに微弱で、白石の顔が見えない。
「わかんないよ。僕、本当に小さい頃しか会ったことないんだ」
泉は眉間に皺を寄せながら言った。
「高校入ってからもほとんど話をしないまま転校して行っちゃったし、その後のこともわかんないし」
「じゃあさ。質問を変えるよ」
白石は少し顔を上げながら言った。
「アレは本当に、柊麗奈だと思う?」
「―――――」
泉は口を開けた。
「それって……どういう……?」
************
『としくん』
幼いころの彼女の顔が思い浮かぶ。
『またいじめられたの?』
泣いている泉を麗奈が覗き込む。
『なんで笛吹かないのよ。助けに来てあげるのに』
麗奈は泉の擦りむいた膝に絆創膏を張ってくれた。
『ほら、もう泣かないの』
彼女はハンカチに包んだ何かを取り出した。
「これ、お母さんがくれたんだ』
開いたハンカチには、小さなクリームパンが二つ入っていた。
『一緒に食べよー?』
彼女の笑顔は、真夏の太陽よりも眩しかった。
************
「………信じられない」
泉はやっとその言葉を口にした。
「信じられないよ。あの優しかった麗奈ちゃんがこんなことしてるなんて……」
そう言うと白石は膝の間から頭を起こした。
「――同感だ」
黒い顔がこちらを見る。
「アレは、柊麗奈じゃない」
―――その時、屋敷を震わすような悲鳴が響き渡った。
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