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◇◇◇
「………」
あんなに音が響いてきたのに、何事もなかったような彼女の声に、身体中の毛が逆立つほどの恐怖を覚え、白石はますます泉の背中に顔を埋めた。
「……なに?どうかしたの……?」
泉が無理に普通の声を出している。
「ううん。何でもないよ」
ドアの外の麗奈は言った。
「―――!」
白石は泉の背中をトンと押し、
「――何があったのか聞いて」
小声で言うと、泉は素直に応じた。
「――す……すごい音がしたけど、平気?」
泉は不自然にならないような言葉を選びながら言った。
「……あー、うん。平気なんだけど」
麗奈は歯切れ悪く言った。
「泉君と白石君は、明日の朝まで部屋から出ないでね」
語尾がほんの一瞬低くなった。
「う…ん。わかった」
泉が言うと、
またズルッ、ズルッという不気味な音は遠ざかっていった。
「なんなんだよ……もう……」
白石はため息をついた。
「この様子じゃ、辻ももうやられたかな……」
汗でべったりと張り付いた前髪を掻き上げた。
そうだ。
もし辻が足止めしているなら、
宣言通り抱き潰しているなら、
麗奈が一人でここに来るわけがない。
白石は何となく泉を見つめた。
と、彼はこちらをまっすぐに見つめていた。
「なんだよ……?」
彼の顔がハッキリ見えるのは、窓から見える月が上ったからだろうか。
泉は能面のような顔を崩さないまま言った。
「気づかない?」
「―――」
白石は泉の顔を見つめたままふっと笑った。
「柿崎のことだろ」
白石は無理やり口角を上げた。
「気づいてるって。とっくに死んでるんだろ?」
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