422人が本棚に入れています
本棚に追加
/245ページ
◇◇◇◇
頭の皮も剥がれ落ち、脳ミソがむき出しになった後頭部を見つめながら、泉は息を吸い込んだ。
「泉君……」
麗奈はこちらを見上げながら言った。
「部屋から出ないでって言ったよね……?」
「ひ……ひいい!!」
白石が階段を登ろうとする。
泉はその腕を掴んだ。
「――泉……!?」
「麗奈ちゃん……」
困惑する白石を掴んだまま泉は彼女を見下ろした。
「怪我してるの……?」
「?」
白石が驚いて麗奈を覗き込む。
返り血を浴びて真っ赤に染まった着物では分かりにくいが、確かに彼女の腹からは血が溢れ出していて、そこだけ色が濃かった。
その中心、
ちょうど脇腹あたりには、小型のナイフが突き刺さっていた。
「ーーー、ーーー、ーーー、ーーー」
階段には麗奈の苦しそうな息遣いが響いた。
「ちょっと……ちょっとだけでいいから、大人しくしててくれないかなあ!?」
麗奈は頭を持ったまま、その場に崩れ落ちた。
「……今、回復するから……!」
そう言うと、彼女は持っていた顔に齧り付いた。
「……何を……!?」
白石が後ろでブルブルと震えだす。
「脳みそを……吸ってるんだ」
泉は小さい声で言うと、白石の手からスプレーを奪い取った。
それを震えている彼の身体にかけ、それから自分の身体にもかける。
彼女は脳みそを吸うのに忙しいのか、こちらを見ようともしなかった。
「ーー泉!」
レモンの香りに包まれた白石が、すがるようにしがみついた。
「逃げよう!彼女はすぐには走れない」
泉は全身にスプレーをかけ終わると、白石の手首を掴んだ。
一気に階段を駆け下りると、四つん這いになりながら顔を吸っている麗奈の脇を抜けた。
『―――待ってえ』
麗奈が白い手を伸ばす。
しかし泉は振り返らなかった。
先ほど喜多見が抜け出した窓を再び開け、足をかける。白石もそれに習って窓を飛び越えた。
早く。
早く、外へ……!!
その時、
『置いて行かないで!!』
再び屋敷が揺れるほどの悲鳴が響き渡った。
『パパ……!!!!!』
泉は外に飛び出した。
先に降りていた白石が先導して走りだす。
枯葉は群がってこなかった。
それどころかザザッと左右に道を開けた。
二人は庭を走り抜けた。
最初のコメントを投稿しよう!