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林のところまで走ってくると、白石は屋敷を振り返った。
追いかけてくる音も気配もない。
ほぼ同時に足を止めた泉も、肩で息をしながら屋敷を眺めている。
麗奈はどうなったのだろう。
腹を刺されて動けないのか。
しかし、
『今、回復するから……』
彼女はそう言っていた。
回復する?脳みそを食べて?
ーーそんなのまるで、ゾンビみたいじゃないか。
ゾンビは、ウイルスでおかしくなってしまった思考力を、人間の脳みそを食べることで取り戻そうとしているのだと、教えてくれたのは誰だったぢろうか。
もしかして麗奈が食べていたのも脳みそだけだったのか?
脳みそを食べるためには、硬い硬い頭蓋骨で守られている後頭部側から食べるのは不可能だ。
その場合、先ほど麗奈がしていたように、顔側から食べるよりほかない。
思えば山田も耳が残っていたのは、もしかしたら脳みそを食べ終えた麗奈にとって耳は不要だったのかもしれない。
吉永だって首を切られたのはもしかしたら胴体は不要だったから?
あいつは、ゾンビなのか?
まさか―――。
白石は自分の思考に笑った。
今はそんなことどうでもいい。
大事なのはどうやって生きて逃げるか、だ。
「どうする」
肩で息をしている自分より筋力も体力もなさそうな泉を見下ろす。
「下手に動かないで林で夜が明けるのを待つか?喜多見が誰かをつれてきてくれるだろうし」
僅かに月明りに照らされた泉は、星を遮る木々の影があることでかろうじて見える林の方を向いた。
「動かない方がいい……気がする」
泉は顎に垂れた汗を拭きながら言った。
「林の中に沼があるって言ってたよね。そこなら視界が開けてるし、いざというとき藪に逃げ込めるからそこにしよう」
「ああ」
白石はふうっと息を吐き出した。
「ここまで来たんだ。生き残るぞ。泉!」
「―――うん」
白石の言葉に泉は頷き、再度屋敷を振り返った。
静まり返った屋敷からは、虫の声を除いて何も聞こえなかった。
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