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「―――――」 白石は再度、泉を振り返った。 「ーー前から聞こうって思ってたんだけどさ」 「え?」 「泉って……虫オタク?」 口の端を引き上げた、馬鹿にしたような顔。 教室ではけして見せないその顔に、鳥肌が立った。 麗奈は妊娠していた。 そしてさっきの麗奈の言葉―――。 「もしかして―――君じゃないよね?」 「―――は?」 「麗奈ちゃんを、妊娠させたのって……」 麗奈は確かに、逃げる自分たちを見て、「パパ」と叫んだ。 それは幼馴染である自分を見たせいで一時的に幼児退行し、幼いころに彼女と母親を捨てて出て行った父親の幻影を重ねたのかと思ったが。 もしそれが、白石のことを言っていたのだとしたら。 白石は黙ってこちらを見下ろしている。 「――否定してよ……」 泉は白石を見上げた。 「そんなわけ……ないよね?」 「お前ってさ」 白石は暗闇の中で屈んだ。 「虫にしか興味なかったんじゃないの?」 そして何かを拾い上げた。 「ーーーだったら、どうすんの?泉は」 「え?」 「あいつの腹に俺の子がいたとしたら、どうする」 「―――」 泉は白石を睨み上げた。 「そんなことはないと思うけど。もしそれが、同意の上の行為じゃなかったとしたら……」 「なかったとしたら?」 「ーーー僕は君をゆるさ」 その時こめかみに鈍い痛みが襲った。 白石が拾い上げたのは大きな石だった。 「そうかそうか。じゃあ俺は、やっぱりお前を生きて帰すわけにはいかないな」 白石の笑い声が暗い林に響く。 「……くッ!」 仰け反った泉は痛むこめかみを抑えた。 ヌルッとした温かい感触と、傷が外気に触れた冷たさが同時に襲ってきた。 まずい。 逃げなければ…!!」 頭が痛い。 足がよろける。 それでも泉は道を反れ、真横に走り出した。
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