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「泉ー。オタクとマニアって言葉があるじゃん。違いってわかる―?」
走っているはずなのに、真後ろから白石の声が迫ってくる。
「オタクはさー、何かの物事に対して過度に熱中している人を指すらしいんだよ。アニメオタクとか電車オタクとか、そこらへん」
切羽詰まった状況であるのは変わらないはずなのに、彼は鼻歌でも歌い出しそうな陽気な声を出した。
「マニアとの違いとしてはー、熱中する対象を一つに絞っているのがオタク、一つではなく多岐に渡るのがマニアだと言われてるんだけどー」
泉は暗闇で顔の見えないシルエットを振り返った。
すぐ後ろまで迫ってきている。
「あともう1つ。俺なりの見解があってー」
白石はゆっくりと噛みしめるように言った。
「その対象物を、心底愛しているのがオタク。底知れない興味を抱いているのがマニアだと思ってるんだ」
「――――!」
心底愛している。
底知れない興味を抱いている。
この2つがどのように違うのか、泉にはわからなかった。
「だからお前に聞いたんだよ。虫オタクか?って。だってお前は虫のこと大好きだろ?」
林の奥に、キラキラと光る沼が見えたところで、
「ーーー俺は、柊のことを好きではなかった」
白石に後ろ襟を掴まれた。
「だからどっちかと言うとマニアかなー?」
そのまま引き倒され馬乗りにされる。
「あいつのことは何でも知りたかった。交友関係も、家族も、下着の形も、乳首の色も何もかも」
自分を組み敷いた白石は泉の首に手をかけながら笑った。
「1つ、昔話をしようか」
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