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◆◆◆◆
大きく右に仰け反るまで、自分が殴られたのだと気づかなかった。
しかしその威力は、馬乗りになっている泉の上から転がり落ちるまでは至らなかった。
白石は何とか堪えると、起き上がろうとする泉の方と喉元を抑え込み、膝でみぞおちを踏み込んだ。
「―――はは……やるじゃん。泉ちゃん」
笑おうとしたところで、
ピイーーーーーーーーー。
右耳から左耳まで突き抜けるような高い音が響いた。
――なんだ?今の。
何の音だ……?
笛……?
「はっ……はあっ……!」
渾身の力を込めて息を吐き切ったらしい泉が、胸を上下させながら苦しそうに息を吐いている。
「ルーペとナイフの次は笛か?お前は一体いくつ虫グッズを持ってんだよ」
白石はクククと腹から笑った。
「スズムシでも呼ぶつもりか?マツムシでも誘うつもりかよ。ああ?」
みぞおちを膝で踏み込みつつ、もう1つの脛で泉の股間を押しつぶした。
「あああああっ!!」
泉の顔が苦痛に歪む。
「お前って虫と交尾も出来そうだよな。この変態が!」
細い首から笛を引きちぎるとそれを投げ捨てた。
「―――そんな大きな音を出したら……」
体重をかけ黙らせると、白石は辺りに耳を澄ませた。
「あの化け物が来るだろうが……!」
しかし辺りは静まり返っていて、虫の声以外は聞こえてこなかった。
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