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「大丈夫そうだな」 白石はふっと息を吐きながら笑った。 「じゃあ、そろそろ死ぬか?いや待てよ。冥途の土産に、あの化け物について俺の見解を教えてやるよ」 再び泉の首に手をかけながら、白石は片眉を上げた。 こめかみから溢れ出した血で、月明りに反射する泉の白目が赤く染まっていく。 それと比例するかのように彼のうっ血した顔が、真っ赤を通り越して土気色に腫れ上がっていく。 「夏休みに入ってすぐ、柊麗奈は、鶴我川汚染を理由に転居を余儀なくされ、親戚の家に引き取られた。 俺はやっとその家を見つけ出すと、毎日のように通って観察した。 お前ならわかるだろ?好きなものをずっと観察していたい気持ち」 白石の手を引きはがそうとする泉の指が震えている。 「ある日、彼女は手ぶらでフラッと親戚の家から出てきた。俺はその後ろを追いかけた。もちろんもしまた人気のないところにいったら襲ってやるつもりで」 まだ意識はあるのか、泉が目を見開く。 「でも彼女が向かった先は、立ち入りが禁止されていた鶴我川だった」 白石は当時を思い出しながら目を細めた。 「声をかける暇もなく、彼女はざぶざぶと水の中に入っていった。あのころほら、ニュースで汚染が原因で魚や鳥の奇形が問題になってただろう。とてもその中に入っていって助ける気にはなれなかった」 白石は泉の細い首を絞める力を緩めないまま言った。 「彼女は俺の目の前で、入水自殺した。柊麗奈は、死んだんだ」 急に絞めていた首から力が抜けた。 「つまりあれは―――」 「…………」 「柊麗奈の怨霊……なんちゃって」 しかし泉が白石の見解を聞くことはなかった。 光を失った泉の瞳が、月を睨むように反転し、必死で手を掴んでいた手がだらんと左右に垂れた。
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