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―――見事な切れ味だ。 泉は白石の首の綺麗な断面を見て、そう思った。 彼の見開いた目に映っている自分の後ろの、確かに形をした彼女の影を見つめた。 「…………」 泉は振り返った。 そこにはこちらを笑顔で見つめる、 麗奈の姿があった。 「………麗奈ちゃん」 麗奈の姿をして、麗奈の記憶を有した彼女を、そう呼んでいいのだろうか。 それが正しくなくても―――。 泉は麗奈の大きな瞳を見下ろした。 「麗奈ちゃんはこうして、僕のことを何度も何度も、守ってくれたのに」 込み上げる想いで声が詰まる。 「守れなくて、ごめん」 「――――」 麗奈は黙ってこちらを見上げると、ゆっくりと瞬きを1回して頷いた。 「…………」 白目までも真っ黒に染まった目。 複眼は小さな多数の目が集まってできている。 その中心に見える黒点は瞳ではなく偽瞳孔だ。 これが暗い場所ではその複眼が何とか光を取り入れようと広がるために、目全体に黒色が広がる。 真っ黒な目で、麗奈が泉を見つめる。 「とシクん。私、赤チャんが産ミタいノ……」 「………」 泉は彼女の腹を見下ろした。 着物で隠れていてよくわからないが、1日目と比べると少し張っているような気がする。 「……産卵したいってこと?」 泉は恐る恐る彼女に訊ねた。 すると、麗奈は小さく首を横に振った。 「―――じゃあ」 泉は眉間に皺を寄せながら、恐る恐る口にした。 「妊娠したいの……?」
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