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麗奈が血だらけの顔で、畳にのたうち回る。
顔の傷も相当深いが、彼女が痛がっているのは刺された腰の方だった。
「化け物でも痛えのか……?」
喜多見は笑いながら、持っていたナイフにべっとりと付着した血を嘗めた。
「でも―――柿崎はもっと痛かったんだぜ?」
辻は慌てて立ち上がった。
―――こいつ……気づいて戻ってきた……?
そうだ。
麗奈は先ほど窓から柿崎の頭を捨てた。
それを、あろうことか喜多見が見つけてしまったということか。
―――なんて、不運な……。
辻は自分たちの計画の失敗を悟り、怒りに燃える瞳で麗奈を睨んでいる喜多見に絶望を感じ、膝から崩れ落ちた。
敵うわけがない。
ここで喜多見は殺される。
そして自分もきっとこのまま……。
屋敷内で息を潜めている白石だって。
しかし―――。
しかし泉は……。
もし、
もし麗奈の記憶が少しでもこの化け物に影響を与えるなら、
幼いころの思い出と共に、
お前の本来の優しさが少しでも残っているなら、
どうか泉のことだけは、
助けてくれ……!
「おい」
頭上から声が聞こえた。
「なに休んでやがる」
振り向きざまに喜多見から口に何かを突っ込まれた。
「……!?」
それは火のついた煙草だった。
「行けよ。お前が替わりに」
そう言うと喜多見は辻を引き起こした。
「―――お前は……?」
辻はその銀色の後頭部を見つめた。
「残念ながら俺は」
喜多見はニヤリと笑いながら振り返った。
「この女を殺さなきゃいけねえ理由ができた」
その時、彼の背後でむくりと起き上がった麗奈が、黒点で喜多見を睨んだ。
そして白い着物の袖からソレを出した
―――なんだあれは……。
「ーー生き残れよ、辻」
喜多見は静かに言った。
―――あれじゃあ、まるで……。
「生き残ったら、それが」
麗奈は喜多見の後頭部めがけてソレを振り上げた。
「正義だ……!」
―――危ない!
そう言おうとした瞬間、
辻は喜多見にドンと押された。
彼が入ってきたのであろう開け放たれた窓。
辻は落下し、地面に右肩から叩きつけられた。
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