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『辻くん……』
その声は、麗奈の声なのか、そもそも人間の声なのか、わからなかった。
『こんなところにいたの……』
耳障りに響くその声に辻が顔をしかめると、彼女は泉を見下ろしながら言った。
『途中だったよね。続き……しよっか?』
「ーーー!!」
ガタガタと奥歯が震えた。
泉は麗奈に譲るように一歩引き、麗奈は泉を見つめた。
『ーーありがとう。やっぱりとしくんは優しいね』
真っ黒に染まった瞳で笑う。
辻はその場に崩れ落ちた。
「……勘弁、してくれ……」
そう言いながら動く左手で顔を覆った。
「その顔で、その声で、もう……やめてくれ……!」
「辻君?」
「―――!!」
そのとき、麗奈の声が胸にストンと響いてきた。
「大好きだったよ」
「!?」
その瞬間、麗奈の顔をした何かは、蹴り上げた泉によって、沼の中に突き落とされた。
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