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◇◇◇
「あれ?まだ瑠璃戻ってきてないの?」
母が会計と挨拶を済ませて戻ってきても、
「瑠璃はどうした?」
父が3往復の末に、大きな荷物をあらかた運び終わっても、
瑠璃は戻ってこなかった。
「俺、見てくるわ」
辻はそう言いながら、階段へ走った。
そんなわけない。
苦しんで倒れてるなんて、そんなはずない。
でも―――。
言い知れない不安が胸を襲う。
長年面倒を見てくれた看護師と話し込んでいるんだ。
記念撮影しようよなんて、誘われているんだ。
馴染みの患者とも別れを惜しんでるんだ。
そうだ。
きっと、
そうだ……!
階段を上り終わった辻は、廊下を走りそうになる自分を必死で抑えた。
大丈夫。
瑠璃は、
大丈夫……。
と、
「え、本当?なんだー!それならお兄ちゃんもそう言ってくれればいいのにー」
そのとき廊下に響く瑠璃の華やいだ声が聞こえてきた。
「――――」
腹の底から安堵のため息をつく。
――心配させやがって……!
辻は小さく舌打ちをして笑いながら、
「俺がなんだってー?」
病室を覗き込んだ。
「あ、お兄ちゃん!」
奥にいた瑠璃が、辻に気が付いて右手を上げた。
左手には今しがたもらったのであろう、ピンク色を基調とした可愛い花束が抱かれていた。
彼女の手前に、髪の長い女性が立っている。
白いワンピース。
黒い髪。
「―――――」
辻は笑った口元を下げた。
ゆっくり。
ゆっくり、
彼女は振り返った。
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