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『瑠璃さんは、一刻の猶予も許さない状態です。早く移植手術を受けないと――』
両親の後ろに隠れるようにして医師の話を聞いていたため、その顔がよく思い出せない。
『ドナーは順番待ちなため、瑠璃さんの緊急性をもってしても今すぐというわけにはいきません。それまでは病気の進行を遅らせる緩和療法と、合併症を防ぐ薬剤投与でこの期を凌ぐしかありません』
しかし、医師が苦虫を噛み潰したようにこう言ったのだけは覚えている。
『ここ数日バイタルは安定していますが、はっきり言っていつ急変してもおかしくありません。希望は捨てずに、それでも覚悟だけはしておいてください』
目の前に座っていた両親が泣き崩れた。
『会わせたい人がいたら今のうちに連絡をとってください』
―――会わせたい人がいたら。
その言葉を聞いて、一番最初に浮かんだのは、彼女の顔だった。
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