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「いたー?」 柿崎の声で辻は目を開けた。 「いねえ」 中林の不機嫌そうな声が続く。 ―――山田の奴。朝になってもこっちに戻ってねえのか。馬鹿な奴。 辻は大きく息を吐きながら壁の方に寝がえりを打った。 「あいつら二人とも、どこに行ったんだー?」 柿崎の間延びした声が聞こえた。 ―――? 慌てて身を起こす。 急に起きた辻にすぐ横に立っていた柿崎が「うおッ」とビビる。 「誰がいねえんだよ?」 聞くと、柿崎と廊下から入ってきた中林が二人で顔を見合わせる。 「山田と、泉が……」 ベッド柵から身を乗り出して覗き込む。 「…………!」 入り口側のベッドの下段はもぬけの殻だった。 辻は柵に手をつき飛び降りるように床に着地すると、1階の廊下に飛び出した。 山田―――はわかる。 泉は? 食堂に行くと言って出て行ったあと、戻らなかったのか? あの部屋に戻って3Pとか? まさか。 バカげてる。 でも―――。 ガラガラ。 玄関の出入り口から音がした。 「利之……?!」 反射的に振り返るとそこには、 「――利之って誰?」 銀色の髪の毛を朝陽に光らせた喜多見が立っていた。 「ああ、いや……」 煙草を吸ってきたのだろうか。 学生服の胸ポケットに明らかにそれとわかる箱を突っ込み、喜多見は軽く首を傾げた。 何となく気まずくなり、辻は頭を掻きながら自分より少し背の低い喜多見を見下ろした。 「山田と泉がいなくなったっていうからさ」 「泉?」 喜多見は今しがた入ってきた扉を指さした。 「今来るぜ?」 「――――?」 ガラガラガラ。 扉が開き、紙箱を抱えた泉が入ってきた。 どこに潜ってきたのか、髪の毛には蜘蛛の巣をぶらさげ、頬には泥がついていた。 「何やってきたの?お前……」 思わず聞くと、 「宝探し。―――な?」 喜多見が笑顔で振り返り、泉は照れくさそうに頷いた。 クラスメイトには嫌われているくせに、学校一の不良とはどうやら少し仲良くなったらしい。 ―――やっぱり変な奴。 辻が顔をしかめたところで、 「みんなー、ご飯の支度できたよー!」 麗奈の声がした。 その声に泉が辻に視線を送ってくる。 辻は仕方なく小さく頷くと、踵を返し食堂に向かった。
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