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食堂に集まったメンバーは一夜明けた互いの顔を見た。
一晩で何が変わるわけでもないが、沢渡は寝癖のついたまま欠伸をしているし、中林に至ってはうっすらと髭が生えている。
―――こっちは変わんねえな。
辻は、きちんと身なりを正している白石と、髪の毛の一本一本まで完璧に整えられている柿崎を横目で見た。
「―――ん?」
山田がいない。
てっきり麗奈と共にニヤついた顔で出てくるかと思っていたのに。
「あれ。山田、本当にいねえな」
中林が視線を走らせる。
「あ、そのことなんだけど」
エプロンを巻いた麗奈が、温めたクロワッサンを木製のトングで挟み、それぞれの皿に分けながら口を開いた。
「昨日の夜中ね、塞がった道路の土砂が少しだけ取り除かれてね、バイクが一台ギリギリ通れるくらいの通路ができたんですって。だから本館から職員が来て、一人ずつ連れていくって言ったから、そのときちょうど起きてた山田君にお願いしたの」
「え、じゃあ山田だけ、本館の方に行ったってこと?」
柿崎が目を見開く。
「うん、そう」
麗奈が困ったように微笑む。
「えー、いいなー」
沢渡がだらりとテーブルに突っ伏す。
「まあまあ、沢ちゃん。そんなこと言ったら柊が可哀そうだろ」
柿崎の指摘に、沢渡が大きく口を開けた。
「あ、俺、そんなつもりで言ったんじゃなくて!!」
「ふふ。わかってるよ」
麗奈は笑いながら、今度は平皿にミニトマトを置き始めた。
「柊が作ってくれるご飯は美味しいし、風呂も広くて快適!本館に行ったら先公たちや他の生徒もいて、勉強しなきゃいけない雰囲気だろうし、今のこの状態の方が何倍もいいよなー」
沢渡が焦りながら言い、
「ホントホント。うるせえお袋も親父もいないし、ここに住みたいくらい!」
中林が同調する。
「――――」
斜め前に座った泉が視線を送ってくる。
「ーーー」
辻も送り返した。
「辻君は―――」
いつの間にか麗奈が自分の真後ろに立っていた。
「トマト、食べれるんだっけ?」
「…………!」
その低い声にゾクッと背筋が冷たくなった。
「あ……ああ」
やっとのことで言うと、彼女はミニトマトを三つ、今度は銀色の丸いトングで掴むと、辻の前にあった平皿にを転がした。
―――なんだ、今の威圧感は……。
辻はもう一度泉を見た。
彼はもうこちらを見ていなかった。
自分の皿に置かれたトマトを見て、眉間に皺を寄せていた。
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