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2人はそのスニーカーを誰にも気づかれないように、茂みのさらに奥にしまうと、慌てて建物内に戻った。 「あれって、山田君の……?」 廊下を速足で進みながら泉が見上げてくる。 「俺が知るか!」 辻は舌打ちをしながら答えた。 しかし部屋に戻る途中、2人で覗いた下足箱には、人数分の靴がちゃんとあった。 それではあの靴は? 真新しく、まだ一度も雨風に当たっていないような、あの靴は? 部屋に戻ると、沢渡や白石、吉永までもこちらの部屋に入っていた。 そしてその中心に、麗奈が立っていた。 「あ、きたきた。待ってたわよ」 彼女はそう言うと、改めて皆を振り返った。 「あのさ、ここにはテレビも映らないし、みんな暇でしょ?」 「―――ビデオはあるけどな……」 中林が小さな声で言い、柿崎がケケケと下卑た笑いで答える。 「だからさ、お昼のうどん、みんなで打つのはどうかなーって思うんだけど、どう?」 麗奈の提案に、男たちは目を点にした。 「打つって粉から?」 沢渡が呟く。 「当然!」 そう言うと麗奈は皆に薄力粉を掲げて見せた。 「うどんの材料は、薄力粉、水、塩しかないのよ」 「へえええええ」 男たちが一様に口を横に伸ばす。 「だからさ、やろう?」 麗奈の笑顔にすぐさま沢渡と中林が頷いた。 「お前もだろ!柿崎!」 「えー、俺、手が汚れる系は……」 と渋っていた柿崎も、沢渡に肘でつつかれ渋々了承した。 喜多見はというと食事の途中からすでにどこかに姿をけしていなかった。 白石はうどんグループに混ざるでもなく退室するでもなく、伸びをしている。 「俺、パース」 辻は皆に聞こえる声で言うと、スラックスのポケットに両手を突っ込んだ。 「適当にブラブラしてるから、もし次バイクで迎えが来たら、俺にして」 麗奈に言うと彼女は薄力粉を持ったまま微笑んだ。 「わかった。でも、門からは出ないようにね?」 「―――なんで?」 辻が眉間に皺を寄せると、彼女は柔らかく微笑んだ。 「熊に会うかもしれないから」 「…………」 辻はチッ舌打ちすると、踵を返した。 食堂を出る瞬間、自分のベッドに座っている泉を睨んだ。 「?」 ただでさえ大きな目を見開く彼に、顎でしゃくる。 「―――あ」 気づいたらしい泉を置いて部屋を出ると、扉を閉めて壁に寄りかかり、泉が出てくるのを待つ。 「泉君?」 すかさず麗奈が呼び止める。 「泉君はやらないの?うどん」 「あ、ご……ごめん。ちょっと腹が痛いから……」 泉の苦しそうな声が聞こえてきた。なかなかの役者だ。 「ウンコかー?泉―」 沢渡が笑う。 「一人で出来る?手伝ってあげようか?」 中林が悪ノリをする。 ―――本当につまらない奴らだ。 心の底からため息が出る。 なんで神だか仏だかはこんなくだらない人間たちに五体満足な身体を宛がったんだ。 そして―――。 どうしてあいつには、健康な身体を用意してやらなかったんだ。 「気を付けてね、泉ちゃん?」 「喜多見や辻にケツ掘られんなよー?」 野次が廊下まで響いてくる。 ――あいつら一発くらい殴ってやろうか。 辻が拳を握りしめたところで、具合悪そうに屈んだ泉が出てきた。 彼は部屋のドアを閉めるなり、姿勢を戻して真っ直ぐ辻を見上げた。 「……行くの?柊さんの部屋」 「――ふっ」 その飄々とした顔を見て、辻は思わず吹き出した。 ―――こいつ、肝が据わってんだかいないんだか……。 「オーケー。行こう、相棒!」 辻は泉の肩を抱くと、階段に向けて歩き出した。
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