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「死体や死骸?ネズミの死骸でもあるのかな?」
今度は辻の背中に回った白石が、肩越しにその虫を見下ろす。
「まあ、この民宿、そうとう古そうだしな」
辻は部屋をぐるりと見回した。
粉が浮いた塗り壁。
黄ばんだ障子。
ところどころ凹んだ畳。
築50年は超えているだろうこの民宿は、どこもかしこも傷んでいて、こんな時でもなければ、とてもじゃないが宿泊したくない建物だ。
―――それにしても、布団の中から出てくるなんていい気はしねえよな。
「しゃあねえ。成敗してやるか」
辻は呆れながら布団を剥いだ。
「―――ん?」
剥いだ布団の、ちょうど真ん中あたりにそれはあった。
黒い……いや、茶色い物。
「なんだ……?」
ちょうど餃子くらいの大きさのそれは、布団の真ん中に黒い液体でこびりついていた。
ネズミの死体……にしては薄っぺらい。
せんべいか?
それとも古いバナナの皮とか……。
中心で何か青いものがキラキラ輝いている。
辻はそれを拾い上げた。
「これは……!」
辻はそれを布団の上に投げ捨てた。
「うっ!!」
後ろにいた泉が慌てて口を塞いだ。
いつもおおむね飄々としている泉も眉間に皺を浮かべている。
青く輝いていたのは、ピアスだった。
黒っぽく変色し、黒く乾いた血がべっとりと付着したそれは―――
耳だった。
「な、な、ななな」
白石が口を押えたまま後退る。
「なんだよ、これ!?もしかして山田の……?」
「知るかよ……!」
辻は泉に視線を移した。
泉も辻を見つめ細かく首を振っている。
誰のかは知らない。
でも、耳だ。
人間の、耳だ……!!
当然の疑問が脳裏に浮かぶ。
―――身体はどこだ……?
「――私の部屋で何してるの?」
「!」
「!?」
「!!!」
三人は同時に振り返った。
襖をほんの10cmほど開けて、麗奈が大きな目でこちらを覗き込んでいた。
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