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「あ、いや……!」
白石が慌てて振り返り、麗奈の前に立ち視界を遮った。
今のうちになんとかしなければ。
辻は捲られた布団を足で直そうと伸ばした。
と、あろうことか泉がソレを持ち上げ、自分のスラックスのポケットに入れた。
―――うわ、こいつ何してんだ……!!
確かに自分もさっきは触った。
しかしそれはコレがナニかわからなかったからで。
人の死体の一部だなんて、思わなかったからで。
ん?
そもそも死体なのか?
山田は死んだのか?
いや。そもそも山田なのか?
どちらにしろ本体はどうなった?
思考はループを繰り返す。
この部屋のどこかにあるのだろうか。
しかし、冷房もつけていないこの部屋からは、変な匂いはしない。
死臭というのはどれくらい経つと臭い始めるのだろうか。
―――いや、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!
白石の向こう側でキョトンと目を見開いている麗奈を見る。
―――この女……もしかしたら殺人犯かもしれねえんだぞ……!
「ねえ、何してたの?」
麗奈は白石を上目遣いで見つめながら、襖を大きく開けた。
「あ、あの……!」
いつもは饒舌な白石が言葉に詰まる。
どうする。
自分一人なら、「エロい物がないか探しに来た」とか軽蔑覚悟で言うことはできるが、一緒にいるメンツが、学級委員の白石と大人しい泉だ。
どうする。
どうする……!?
「ゴキブリが」
口を開いたのは泉だった。
「ゴキブリがいたんだよ。柊さんの部屋に入っていくのが見えたから、退治してやろうと思って二人を呼んだんだ」
「―――」
麗奈が泉の顔を見る。
こうして正面から立つとほぼ身長は同じだ。
白石が息を飲みながら泉と麗奈の間に視線を往復させる。
とりあえずここは乗り切ってくれ。
冷静に考えられるまでとりあえずここは……!
「やだ!ゴキブリ!?怖い!!」
麗奈は急に腰をしならせて白石の後ろに隠れた。
「それで?いたの?!」
「―――あ、ああ。いたんだけど、廊下に逃げられた!」
白石が慌てて取り繕う。
「やだー!本当に!!今年はまだ見てなかったのに!」
麗奈は自分の身体を抱きしめながら身震いした。
よかった。
これでとりあえずは誤魔化せた。
「――まあ男手は腐るほどあるんだから、また出たら俺たちに任せろよ」
辻はやっと息をつきながらそう言った。
「ありがとう!そうだ。ゴキブリコロリどこにあったかなー?」
麗奈は踵を返すと、廊下に出て行こうとした。
三人で視線を交わし互いの功績をたたえ合う。
しかし―――
「そうだ、泉君」
麗奈が振り返った。
「どうしてここが、私の部屋だって知ってたの?」
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