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◆◆◆
白石も引き連れて部屋に戻った辻と泉は、彼が持っていた脱脂綿の上に乗せたソレをもう一度見つめた。
「――あんまりジロジロ見て気持ちいいもんでもないけどな……」
臭ってくるわけではないのだが、本能的に鼻と口を塞いでしまう。
「山田がピアスしてたかって覚えてねえか?」
辻が白石に言うが、
「あいつら……てかお前もだけど。ジャラジャラつけてるからいちいち覚えてない」
彼は首を振りながら言った。
泉も同様のようで小さく頷いている。
誰からともなくまたその耳に視線を戻す。
ぞくぞくと悪寒が走り辻は肩を竦めた。
「んで、どうする」
辻の言葉に白石が唸る。
「みんなに言うのが先か、それとも本人に確認するのが先か……」
「本人って……」
「無論、柊さんだよ」
白石は耳を見下ろしたまま言った。
辻は想像した。
3人で麗奈を呼び出す。
耳を突きつける。
彼女の反応を見る。
言い逃れなんてできないはずだ。
だって彼女は昨日、耳が落ちていたその場所で、山田とセックスをしていたのを自分と泉が見ている。
彼女はどう出る。
何て言う?
辻は耳から目を逸らし、窓を見上げた。
外には逃げられる。
しかし外部と連絡を取ることはできないし、いつまた土砂崩れが起こるかもわからず、唯一通れるようになったという道もわからない。
この炎天下の中、自分たちが数日間生きていくにはこの民宿に泊まらざるを得ない。
彼女の管理下で―――。
「嫌だ」
泉が口を開いた。
「彼女を刺激したくない。怖い」
「――――」
「――――」
何を馬鹿なことを。たかが女一人に!
辻も白石もそう言って笑うことなんてできなかった。
全くを持って同意だった。
この恐怖心はどこから来るのか。
そもそも自分と柊麗奈は他人ではない。
よく知っているはずのあの女が―――
なんでこんなに怖いんだ。
「それ、何?」
慌てて振り返る。
そこにはうどん作りには参加しなかった吉永が立っていた。
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