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「な……なんだよ!?」
思わず声が裏返る。
「―――」
泉はナイフを握り直すと、ジャラッと中を回転させて見せた。
「なんだそれ、ただのルーペじゃねえんだな」
辻が覗き込む。
それは折り畳み式のアウトドア用のナイフだった。
「もともとは多機能ナイフだったのを、必要な部分だけ残して改造したんだ」
―――夏期講習の何に必要なんだよ!そんなもの!
心の中でツッコミを入れる。
ルーペとナイフ、はさみと小型ノコギリが、目の前でブラブラと揺れていた。
「これが―――?」
吉永はルーペのレンズの向こう側にいる泉を睨んだ。
「もしこれが作り物だって言うなら、このナイフで切ってみてよ」
とんでもないことを言い出した同級生を吉永は睨んだ。
「―――は。お前もグルか?」
鼻で笑うが、泉は眉一つ動かさずに吉永を睨んでいる。
―――なんなんだこいつ、気持ちの悪い!
吉永は息を吸い込んだ。
1年から同じクラスだが、話す機会などなかった。
いつも教室の片隅で分厚い図鑑か、筆入れとは別に持ってきているアルミのペンケースの中に入れている何かを見下ろしている。
あれはいつだっただろう。
そうだ。
クラスの誰かが「●●が童貞喪失した」とか言って騒いでいた時だ。
誰も見ていなかった。
誰も気にかけていなかった。
そんな中、泉は一人、ペンケースを見て、ニヤニヤ笑っていたのだった。
泉同様、同級生の童貞喪失に微塵の興味のなかった吉永は、泉のペンケースを覗き込んだ。
その中にはーーー何が入っていたんだっけ?
「―――なんだよ。血でも飛び散るって言いたいのか?」
吉永の放った言葉に白石がギョッとしてテーブルの上に置かれたソレを見下ろす。
「―――血で……」
泉は吉永を見上げた。
「済めばいいけどね?」
「―――――」
ばかばかしい。
アホらしい。
今すぐこの茶番を終わらせて、
隣の部屋で勉強を再開したい。
そう思うのに。
身体がなかなか動かない。
血で済まない?
じゃあ何が出てくるって言うんだ。
一体何が……。
「……くそっ!」
吉永はぶんどるように泉からそのナイフをとった。
テーブルの上にあるそれを掴むと、そのナイフを真ん中に当て一気に切り裂いた。
結論から言って、血は出なかった。
「―――オエエ!!」
見ていた白石がその場で吐いた。
辻も尻をついたまま入り口付近まで後退りをした。
ただ泉だけが、初めからわかっていたように、静かにそれを見下ろしていた。
吉永が切ったソレの断面から出てきたのは、
数十匹の蛆虫だった。
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