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「ーーなんでミミミが……!」
唇が震え、“耳”と発音できなかった。
しかし泉は冷静な顔でそれを見下ろしながら言った。
「それはまだわからない」
「耳がここにあるなら……顔は?頭は?身体は……?」
今度はまだ倒れているままの辻を見下ろす。
「し、知るかよ!俺に聞くな!!」
いつもは余裕綽々でズボンのポケットに両手を入れてブラブラしている長身の男も、こうしてみるとただの高校生だった。
「――――」
吉永はソレに目を戻した。
落ち着け。整理するんだ。
これは耳。
人間の耳。
その身体の持ち主は今のところ行方不明。
生死は不明。
傷害、もしくは殺人の容疑者は―――。
「柊……麗奈。あ、あいつ、なんなんだよ!」
吉永は顔を上げた。
「これは立派な事件だ。警察に連絡だ……!」
その声に泉と辻も目を合わせる。
「てかこの民宿……。電話はどこにあるんだ……?」
辻が言う。
本当だ。
玄関にはなかった。
廊下にも、食堂にもなかった。
となると麗奈の部屋?
いや、そもそも電話がない可能性だってある。
「―――思ったんだけど……」
自分が吐いたものを、枕カバーに使っていたフェイスタオルで拭きながら、白石が涙目で見上げる。
「もし柊麗奈が殺人犯だとして。頭のおかしい猟奇的殺人鬼やサイコパスだとして、さあ」
縋りつくように言う。
「あそこで耳を千切る必要ってある?」
「――――」
ーーー確かに、そうだ。
もし死体を解体するなら風呂場や外でやるだろうし、そもそも解体する理由も見つからない。
「―――食糧確保とか……?」
辻がシャレにならないことを言う。
「よくホラー映画とかであるだろ?限られた食糧で閉鎖された空間で。究極の選択ってやつだよ。
もしかして今朝飲んだコンソメスープに浮かんでたソーセージに、山田が入―――」
「やめろ!不謹慎だろ!!」
白石がまた口を押さえて叫んだ。
「しっ!」
吉永と泉が同時に唇に人差し指を付ける。
「ーーーー?」
4人で廊下の気配を窺う。
食堂からは麗奈を含んだ男たちの馬鹿っぽい笑い声が響いてきた。
揃って胸を撫でおろし、スタート地点であるソレに視線を集める。
すでに割れ目付近のウジ虫は四方に散ったが、切られた断面にはまだ白い塊がうねうねと脈打っている。
「でも、うん……そうか」
泉が人差し指を降ろしながらゆっくりと言った。
「辻君。それ、当たりかもしれない」
「―――当たりって?」
「だから食糧確保ってやつ」
泉は目を細めた。
「山田君は柊さんに食べられたのかもしれない。
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