3

7/7
前へ
/245ページ
次へ
「ーーな、なにっ、言ってんだよ……!」 声が裏返る。 しかし泉は顔色一つ変えずに言った。 「ここに、みずみずしい桃があるとする」 泉は宙を掴むように指を曲げた。 「包丁で切ったら中から果汁が溢れる。 もし掌で握りつぶしたとしても果汁が零れる。 でも―――」 泉は白い歯を見せて、その宙に浮かぶ桃にガブッと噛みついて見せた。 「しゃぶりつけば、果汁は零れない」 ーーこいつ……! 驚くほど無表情な顔で、吉永を見上げてくる。 ーーこいつ、どっちの味方だんだよ……!? その異常なまでの中立の視線に、白く冷たい中性的な顔に、混乱した自分の頭が冷えていく。 そうか。 これは、複数回答(MA)ではなく、単一回答(SA)。 話は至極簡易かつシンプルだ。 なぜか?じゃなく、 どうしたか?じゃなく、 ーーーどうするか、だ。 「なるほど。一つの解釈としては興味深いし、理にかなってるよ。でも確かなのは……」 吉永は泉を睨み返した。 「身体を切ろうが、千切ろうが、食べようが、どれも立派な犯罪だ……!」 そう言うと吉永は呆けている辻と、首を傾げている白石を突き飛ばすように廊下に飛び出した。 「お、おい、どうすんだよ!?」 辻が追いかけてくる。 「直接彼女に問いただす。場合によっては警察に受け渡すまで拘束する」 正面から外で煙草を吸ってきたらしい喜多見が歩いてくる。 「ーー待てって!おい!」 白石が叫ぶ。 「ビビるなよ。俺たちはーーー」 食堂のドアを開け放った。 皆が一斉に振り返る。 沢渡 柿崎。 中林。 そして、 喜多見。 辻。 白石。 泉。 吉永。 「ーー俺たちは、8人もいるんだぞ……?」 そう言いながら、麗奈を睨む。 彼女の目が一瞬、白く光った気がした。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

422人が本棚に入れています
本棚に追加