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◇◇◇ 「出流(いずる)は俺の自慢だよ」  吉永の父は、ことあるごとに、本当に自慢するように母に言った。 「俺は、頭はよくなかったからなあ」 そう眩しそうに自分を見つめる父が好きだった。 自分なんか大したことはない。 父こそ、吉永の自慢だった。 父は、警察官だ。 家にいる時は常に夜勤明けで、 「ここでがっつり寝ちゃうと、リズムが一気に崩れるんだ」 と、笑いながら眠たそうに目を擦っていた。 そしてたとえ休みでも、大事故や災害、事件があれば駆り出されて出掛けて行った。 1年前の鶴我川汚染の時などは、住民の避難呼びかけに、警察署に泊まり込みで2週間も帰ってこなかった。 街の平和と市民の笑顔を守る警察官。 身体も大きく、力持ちのお父さん。 しかし―――。 数か月前、彼は派出所で突然倒れた。 医師の診察で、原因は過労だろうと言われた。 それはそうだ。 歳をとって身体が疲弊しても、愛も変わらず派出所で三交代勤務。 休憩時間も休日も駆り出されて、町の平和を守るために、住宅地を走り周り、救援物資を運び、悪者と戦う。 人を助けてきた警官が、 町を守ってきた警察が、 ーーこんなんじゃだめだ。 警察官だって疲労もする老いもする一人の人間なんだ。 警察官だって誰かの大事な家族であり父親なんだ。 組織を変えられるのは―――。 上に立つ人間だけだ。 これから自分は、この学力を保ちながら、東京大学に入らなければいけない。 国家総合職にパスし、国家公務員として警察官にならなければいけない。 しかし今はそれよりも、 父の子供として、 警察官の一人息子として、 ここにある犯罪を、暴かないわけにはいかない。 吉永は、目の前にいるを睨んだ。
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