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「無駄に怖がらせたくなかったんだけどなー」
麗奈は一歩、踏み出しながら言った。
逃がすまいと構えたが、彼女は入り口の方ではなく壁の方によると、こちらを振り返った。
「―――山田をどうした……?」
吉永が聞くと、彼女はテーブルの上のソレを見下ろしながら言った。
「ピアスが……」
「は?」
「ピアスがね、唇に刺さって」
「――――?」
「残しちゃったの」
「―――」
何を言ってるんだ……?
吉永は思わず辻を振り返った。
辻も眉間に皺を寄せたまま麗奈を見ている。
その奥にいる喜多見は、何が何だかわからないようでキョロキョロと全員を見回している。
吉永は救いを求めるように泉に視線を移した。
彼は怯えるでもなく、睨むのでもなくただ麗奈を静かに見つめている。
そうだ。
こいつ、さっき言ったじゃないか。
『しゃぶりつけば、果汁は零れない』
「―――食べたのか?」
その事実に吉永は身震いをしながら彼女に視線を戻した。
「お前は、山田を喰ったのか?」
「―――んな、馬鹿な……」
沢渡が口を開ける。
しかし麗奈は口の端を上げると、ゆっくりと微笑んだ。
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