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柿崎は縋るように沢渡を見つめた。 自分は足を怪我している。中林のようには走れない。逃げられない。 沢渡は……。 1年の頃からつるんでいたこの”親友”は、 自分を助けてくれるはずだ。 いや、助けてくれなければ困る。 否。 はずだ。 だって俺は―――。 こいつのことを今まで散々立ててきてやった。 大して顔も良くなく、 大してモテるはずもなく、 大して面白いことさえ言えないこいつを慕う振りをして、 ここまで持ち上げてやったんだ。 だから、 だからこいつは俺を―――。 助けなければいけない。 「――離せよ」 しかし沢渡はこちらを見下ろすと、そう言い放った。 「お前はもういい思いをしたんだろ?じゃあ、お礼に喰われてこいって」 「――――!!」 「離せよ!!」 沢渡は思い切り柿崎の手を振り払うと、掃き出し窓から外に飛び出した中林の背中を追いかけていった。 「沢ちゃん……!」 沢渡は振り返らない。 その背中に白石が続き、辻が続き、泉も駆け出した。 「待ってよ……!」 柿崎は皆の背中に向かって手を伸ばした。 「置いて行かないで……!!」 皆の背中が、眩しい8月の太陽に溶けていく。 「ーーみんな!!」 その手を、誰かが掴んだ。 「――――!?」   その熱い手はーーー。 「……(とおる)」 喜多見のものだった。
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