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「大丈夫か?」
「ーーああ」
柿崎透は、喜多見に支えられてベッドに座ると、礼の意味を込めて彼に大きく頷いた。
メンバーは、吉永が目の前で死んだ食堂にはいたくなくて、誰からともなく宿泊室に戻ってきていた。
ドアを閉め切るのは怖かったので、開けながら辻が廊下の気配を窺ってくれている。
「あれは……なんなんだよ……!?」
沢渡が誰にともなく呟いた。
「殺人鬼やサイコパスなんて可愛いもんじゃねえ。妖怪か?化け物か?それとも……」
「悪魔だ」
白石が無表情でそれに続いた。
「彼女は刃物なんか持ってなかった。それなのに吉永の首は一瞬で飛んだ」
「糸……とかは?」
辻がチラチラ廊下を見ながら言う。
「ほら、最近のアニメであったろ。糸で身体を刻むやつ」
「ーーそれこそ……鬼や物の怪の類だろうが!」
沢渡が短髪の頭をガシガシと掻く。
「柊……あいつ。どうしちまったんだよ!?」
「それに―――」
白石は窓に寄り、外を眺めた。
「問題はあの枯れ葉だよな……」
「そうだよ、あれ、なんなんだ!?」
沢渡も立ち上がり、窓を覗き込む。
「中林を喰ったぞ!?なんかの虫か!?」
「――枯れ葉に擬態する昆虫は……」
そのとき、ずっと部屋の隅で膝を抱えて座っていた泉が口を開いた。
「蝶のキタテハ、蛾のアケビコノハ、アカエグリバ、キリギリス科のクツワムシ、それにカレハバッタなんかがいるんだけど」
淡々と冷静に話す姿に、皆ぞっとして彼を見下ろした。
「キタテハ、アケビコノハ、アカエグリバは肉食じゃないし、肉食のクツワムシは夜行性。カレハバッタは東南アジアの生き物で日本にはいない。あとは――」
泉が髪を掻き上げ、フフフと笑う。
「いや、これも日本にいないし。話すだけ無駄か」
―――笑ってやがる。
柿崎は背筋に冷たいものを感じながら彼を見下ろした。
虫に異常に詳しいだけでも気持ち悪いのに、この状況下で笑える神経に鳥肌が立つ。
ーーいや、そうか。
笑えるか。こいつにとったら。
自分を馬鹿にしてた山田や中林が死んだんだもんな。
自分をいじめていた沢渡が怖がってるんだもんな。
そりゃあ楽しいよな。
柿崎は諦めにも似た心境で、笑いながら肩を震わせる泉を眺めた。
それに―――。
これはおそらくここにいる全員が思っている。
次に襲われるとしたらその相手はーーー
怪我のせいで逃げることも出来ず、
痛みのせいで抵抗もままならない、
―――俺だ。
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