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「辻のスマホは!?」
沢渡が縋りつくような声で言う。
「だめだ。ここにきてずっと電波がねえ」
辻が舌打ちをする。
白石が天井を仰ぎ、ため息をついた。
「道路が復興して通れるようになったら、学校が俺たちを放っておくはずない。それまでの辛抱だ」
――道路の復興……?
柿崎はバスを丸ごと飲み込んだ土砂と飴細工のようにひん曲がり落ちていったガードレールを思い出した。
――あれの復興?一体何日かかるんだよ……。
深いため息をつく。それに反応して隣に立っている喜多見が黙って見つめてくる。
「問題は……」
白石が視線を上げた。
「柊麗奈が一日に何人、食糧として必要かってことなんだけど」
「――!やめろよ!!気色悪い!!」
沢渡が白石を睨むが、白石は青白い顔で続けた。
「なんで。大事なことだ。それによって俺たちの命が奪われるスピードと、生き残れる可能性が大幅に変わる」
白石の言葉に、柿崎はさっとメンバーに視線を走らせた。
残りは―――自分を含めて6人。
「もし一日一人程度でいいなら、少なくとも最後の一人が食べられるまで6日間の猶予がある。しかし、もしこれが毎食だとしたら、明日には全員この世からいなくなるってことだ」
淡々と語る白石に、辻がもう一度舌打ちをしながらドアを殴った。
「道路の復興=自分たちが助かる道が開けると考えれば、もちろん前者の方が助かる可能性は上がる。だけど今日みたいに麗奈を怒らせたり、逃げようとしたら、彼女の空腹具合に左右されず殺されてしまう。そうすると必然的に生き残った者のリスクも上がる」
「つまりは―――」
ずっと黙っていた喜多見が口を開いた。
「抵抗せず、逃げようとせず、大人しく一人ずつ食べられるのを待とうってことか?」
白石は喜多見に視線を上げると、力なく笑った。
――どうしてこんなことになってしまったのだろう。
柿崎は包帯の巻かれた自分の太腿を見下ろした。
『包帯、きつく……ない?』
柊麗奈。
『あ……柿崎…く……んッ』
昨日はそんな素振りなんか、
『……いいよ、出して……んんッ!』
微塵も見せなかったのに。
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