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「んだと!こら!!」 沢渡が握った拳が迫ってくる。 しかしそれは柿崎の睫毛の直前で静止した。 「――――」 プルプルと震える手首を掴んだ喜多見が、沢渡を睨む。 「ーー透に対する攻撃は、俺に対するものと同じだが、このまま続けるか?」 喜多見は銀色の前髪から覗く黒い目で沢渡を睨んだ。 「は……。柿崎、お前、男まで取り入ってんのかよ。どんだけビッチなん―――」 沢渡の言葉は吹っ飛んだ身体から強制的に引き離され、宙を泳いだ。 喜多見の拳が沢渡の溝内に入り、彼はベッドに背中を強打しながら倒れた。 「ああもう。止めろって……」 白石がため息混じりに言った。 「ここで争ってても状況は好転しないだろ……。貶め合って早死にするのがオチだって」 白石は視線を巡らすと、膝を抱えている泉に焦点を合わせた。 「泉。お前、虫に詳しいんだろ?もし家の周りを囲んでいる枯葉が何らかの虫だとしたら、突破できる方法は何かないのか」 指名され顔を上げた泉が少し顔を捻らせる。 「もし昆虫なら、夜行性と昼行性とがあるはずだから、夜になれば動きが鈍くなる可能性はある」 「なるほど」 白石は腕を組み頷いた。 「もしかしたら夜なら逃げ出せるかもしれないってことか……?」 「可能性はあると思うけど」 「じゃあ、夜になったら、冷蔵庫に入ってる肉でも魚でも何でもいい。それを枯葉に向かって投げてみよう。 中林の時のように群がる様子がなければ、みんなで一斉に走り切る。それが今できる一番生存率が高そうな手段なんだけど、他に意見のある人、いる?」 皆は黙り込んだ。 「まあ、夜までは時間があるし。他に名案を思い付いたら教えてくれ。それまでは麗奈が一日一食で足りることを願って、各々体力を温存しよう」 「………」 喜多見は先ほど沢渡を殴った手をブラブラと振ると、ふんと鼻を鳴らして宿泊室を出て行った。 「ーーはあ」 辻も繋がらないスマートフォンを睨みながら舌打ちをし、続いて出て行った。 「ひとつ、解せないことがあるんだけど」 白石が膝を支えて座っている泉の前に片膝をついてしゃがんだ。 「柊麗奈は、どうして精液も欲しいんだと思う?」 泉は白石を見上げた。 「何かしらの肉体変化により、彼女が人間を喰すのはわかった。でもなんで精液まで必要なんだ?」 「…………」 泉はゆっくりと答えた。 「考えられるのは……。生殖本能、かな」 「生殖……?」 「柊さんは、子供を産みたがってる」
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