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柿崎は一人、エレベータ脇の階段に座っていた。 冷房が効いているとは言え、宿泊室も食堂も、日が入る部屋は暑い。 しかしここは窓もなく、各部屋から漏れた冷気が冷やしてくれて、静かで涼しい。 先ほどの宿泊室での会話を思い出す。 夜になったら、みんなで一斉に走り切る。 誰も柿崎の足のことに言及しなかった。 それはそうだ。 こんな命がけの逃亡劇に、誰かの犠牲になるなんて選択肢はない。 もし彼らの駆け出す音に、揺らぐ匂いに、枯葉たちが起きて一斉に群がったとして、逃げきれないのは、走れない自分だ。 走り切る彼らを追えなかった枯葉たちは、怒りを込めて柿崎に一斉に飛び掛かる。 頬を齧り、耳を千切り、目を突き、皮膚の中を蠢く。 ―――そんな最期は嫌だ。 それならいっそのこと……。 「よう。自殺でもするつもりか?」 その声に顔を上げると、目の前には沢渡が立っていた。 ――柿崎の手には、食堂から持ち出した包丁が握られていた。
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